本日営業よりアップします。
妻がまた買ってきました。
イラストレーター・井田千秋さんの最新作品集です。

この画集の主役は、さまざまな部屋で暮らす女性たち。そして、彼女たちが愛してやまない「家」そのものです。
- お気に入りの文房具が詰まったデスク
- 使い込まれたキッチンの道具
- 溢れんばかりの本棚
まさに「家は自分の城」。誰の目も気にせず、自分の好きなものだけに囲まれて過ごす至福の時間が、一枚一枚のイラストからひしひしと伝わってきます。
水彩画風のタッチのイラストです。ウィキペディアの記述によると、どうやらiPad専用のProcreateというアプリで描いているようで、作者の精緻な書き込みと同時にアプリの秀逸さに驚かされます。
作者の井田千秋さんは、大の「間取り好き」のようですね。(雑誌CREAのインタビュー記事)ただキャラクターを描くのではなく、「この部屋の隣には何があるのか」「この窓からはどんな景色が見えるのか」といった構造から考えて描いているのだとか。彼女の描く部屋にリアリティがある理由が分かったような気がします。
男なら「秘密基地」といってしまえばすみますが、女性だとなんていうんでしょう。やっぱり「秘密基地」でいいのかな、そこは「機能性」とか「合理性」、「効率化」や「時短」という価値観とは相容れない聖域。家にはそんな領域が必要なんだと思うのです。

工務店の人間としては、こんなことを考えます。
注文建築で家を建てようとしているご夫婦がいるとして、建築士と間取りの検討をしている最中に、奥様が『おさまる家』を手にしてしまったら、どうなるんだろう、と。おそらく奥様の脳内では激しい自己対話の嵐が巻き起こるんじゃないだろうか? たとえばこんな風に・・・。
「リビングは20畳、吹き抜けで家族の気配を感じる空間……。うん、それが『幸せな家庭』の正解だと思ってた。 でも、この画集の女の子たちがこもっている、あの狭くて、薄暗くて、自分の好きなものに囲まれた『1.5畳の空間』は何? なんでこんなに胸が締め付けられるの? 家族の気配なんて一切遮断して、ただ『私』に戻れる、誰にも掃除させない、誰にも中を覗かせない、自分だけの『不潔で聖なる城』が、本当は一番欲しいんじゃないの!?」
「このイラストはiPadで描かれているのに、なんでこんなに『体温』があるの。 私たちが建てようとしている家は、最新の断熱材で、狂いのないプレカットの木材で、汚れの落ちる壁紙で……。 完璧すぎて、私が入り込む『隙』がない気がする。ピカピカの床を傷つけるのを恐れて暮らすの? 違う。私が欲しいのは、10年後の床の傷を『この時についたんだよね』って笑い合える、この画集のような、生活のノイズさえ愛おしくなる場所なのよ。」
「あぁ、もう! この『おさまる感』を出すには、既製品の収納じゃダメ。造作家具、無垢の床、真鍮の取っ手……。 予算オーバーなのは分かってる。夫はきっと『そんなの自己満足だ』って言う。 でも、これは単なる『物』への執着じゃない。これから30年、40年と過ごす私の『魂の居場所』の代金なのよ。ねえ、どこを削ればこの『おさまる場所』を買えるの?」
色々と想いの広がる作品集なのであります。
図面を見ながら奥様がふと黙り込む瞬間があります。それは、きっとこんな葛藤をされている時なのかもしれません。

私たち工務店の仕事は、単に丈夫な箱を作ることではありません。 家族と、自分、その両方が『おさまる』場所を見つけるお手伝いをすることです。 予算や設計の壁は、私たちがプロとして一緒に乗り越えます。どうか、その『わがままな理想』を隠さずに、私たちにぶつけてみてください。











